Kanae's Book Journal Occasionally with Movies

読書感想文とときどき映画。

<The 23rd Book> メガネと放蕩娘

私が幼い頃はもう既に個人商店の連なる商店街は、たいぶ寂れかけていました。

 

「メガネと放蕩娘」(文春文庫著:山内 マリコ

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https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167915087

 

市役所勤めのタカコは、とある地方都市の商店街にある、実家のウチダ書店で

暮らしています。

十年も前に家出した妹のショーコが急に帰ってきたと思ったら、そのまま出産。

シングルマザーとなったショーコは、生まれ育ったかつての商店街の賑わいからは

程遠い寂れっぷりにショックを受け、商店街内で働く運びになります。

そんなショーコや、大学講師のまゆみ先生、学生たち、市役所の同僚が力を合わせて

商店街復興に奮起する物語でした。

寂れていても、商店街に店舗があるということは、仮にそれが閉店した店舗であっても

食いはぐれがないこと、商店街、地元ならではの内輪感や排他的閉塞感、意外にも

昔からそこで暮らしている商店街の人々のほうが復興を望んでいなかったり、

もはや行政の再開発待ちであったり、、、と様々な障壁がある中で奮闘していきます。

 

私が育ったところは、当時はベッドタウンの新興住宅地と言えます。

どんどん家が建っていって、歩いて5分くらいのところに、スーパーを中心とした

ショッピングセンターと呼ばれるところがありました。

スーパーの横には、理容室、雑貨屋、焼き鳥屋さん、時にペットショップもあった

かしら、記憶はうろ覚えだし、入れ替わりもありましたが、それらが長屋のように

連なっていて、理容室の上にはちょっとした時計台があった。

ショッピングセンターのシンボルのように幼い私は思っていました。

向かいには酒屋さんがあって、はす向かいには文具店、その隣にはひっそりと中華屋が

ありました。

もう既に少しうらぶれているような、商店街とも呼べない商店街でしたが、

週に何回かの遊び場には確かになっていて、文具店でキラキラ光るペンをどの色に

するか選んだり、焼き鳥をおやつに食べたりしていました。

もう今となっては、家が立ち並んでスーパーも含めて跡形もないけれど、

確かにそんな時があったことは覚えています。

そこには確かにそんな私たちを見守る大人の目があって、「みんなで育てる」という

ほどの協力体制はなかったけれど、子供たちだけで薄暗くなって遊んでいても、

妙な安心感はありました。

 

ショーコはシングルマザーとなったわけだけれど、それができたのには、やはり

実家住まいであること、両親の仕事と家が同一の場所にあること、が挙げられると

思います。

アメリカであれだけ見てきたシングルマザー。

私のアメリカでの友人もしばらくはシングルマザーでした。

でも、日本でシングルマザーをするのには、ショーコほど整った環境、ある意味

恵まれた環境でない限りは難しい。

私がサラリーマンをしながら子育てなんて、今の日本社会では、無謀にしか思えない。

仮にシングルマザーになりたくても、なれない。

かつて商店街が栄えていた時のように、地域で育てる感覚があれば別だけれど、

核家族化が進み、コミュニティの結束感も弱まってしまいましたね。

ご近所付き合いも、ほとんどありません。

だからといって、ご近所に自分の子供や自分のプライベートを無償で預ける、

というのも気が憚られてしまいます。

自分(もしくは自分の子供)という個人と、その境界線が曖昧になるような生活、

子育ては私個人的には望んでいません。

(商店街に住む子供は商店街の子供、みんなの子供、という意識がそうさせないとは

言い切れませんが。)

やはり選択肢が狭められている気がする。

どんな選択も許されてほしい、受け入れらる、そんな社会、世の中になってほしい

ものです。

以前も書いたかもしれませんが、駐在員の私が、いま、予期せぬ妊娠をし、 

子供を産み育てるという決断をここバンコクでした場合、そしてシングルマザーとして

育てていくという決意を胸にそれに挑んだ場合、果たして会社や、日本社会は、

それを受け入れ、私が生きていきやすい環境を整えてくれるだろうか、整えてくれて

いなくても、それを当然の権利として私が要求することを受け入れてくれるだろうか。

正直、甚だ疑問です。

でも、そういった選択肢だって、存在しないわけではないでしょう?

でもその選択肢をあらかじめ排除されたような構図になってしまっているように

思われる今の(少なくとも日本の)世の中は、私にとっては非常に息苦しい。

 

この本を読んだところで、あまり感想という感想はありませんでした。笑

娯楽本としては、普通に面白かったです。

地域復興とか町おこしとか、私自身のこれまでの人生において、あまりに関わりの薄い

話で、あまり現実味を増して捉えることができませんでした。

ただ、公務員と民間の意識の違いというものが如実に描かれているのは、なかなか

興味深かったです。

公務員がどんな仕事かは知りません。

ただ、お金や利益についての考え方がここまで大きく異なり得ることは知らなかった。

「予算」の意味がもはや違う。

達成するものと、費やしていくもの。

こんなことを言ったら公務員の方に怒られてしまうかもしれないけれど、会社のお金

というものに興味が持てない、営利企業が必要以上にお金を稼ごうとする、利益を

追求しようとする構造に疑問しか持てない私は、公務員のほうが向いているのかも

しれない、と読んでいて思ったりもしてしまいました。

 

今日は久々にひとりでのんびりお家時間を過ごせそうな日曜日です。

これまで、平日休日問わず、お陰様でプライベートは忙しく過ごしていたのですが、

ひとりで家でウダウダとする日を欲していたことを、改めて実感しています。

今日はまどろみながら内省に励む日としたいと思います。