Kanae's Book Journal Occasionally with Movies

読書感想文とときどき映画。

<The 32nd Book> ガーデン

少年時代に過ごした、とある南国の自宅の庭にずっと恋焦がれる雑誌編集者が、

周囲の女性たちとの様々な関係から、自分を見つめなおしていく物語。

自我がない、自我をなくして、溺愛している植物のように生きようとしている主人公。

植物の描写も、人物描写も、まるで絵画を見ているかのような作品です。

 

「ガーデン」文春文庫著:千早 茜

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https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167915407

 

とある貧しい南国で少年時代を過ごした、雑誌編集者の羽野。

当時の自宅には、美しい庭があり、そこが彼の世界の全てで、彼の楽園でした。

モデルのマリ、バイトのミカミさん、最近結婚した契約社員の女性、同期のタナハシ、

高津副編集長、行きつけのバーの緋奈など、必ずしも深い関係とは言えないながらも、

周囲の女性陣たちの変化を感じつつも、ただひたすらに植物を愛する主人公。

帰国子女であることを隠し、誰とも深い人間関係を築こうとしていませんでしたが、

取材相手の建築家の愛人であり、ニューヨーク育ちの理沙子と知り合い、自分の世界観

が揺らいでいきます。

 

千早氏の作品は、以前、「魚神」を読んだ記憶があります。

文字を追う度に、脳裏に浮かぶ映像が、「魚神」も本作も、まるで絵巻物を見ているか

のように美しいのです。

色の描写がエッセンスになっているからかもしれません。

私は普段、コミュニケーション自体もローコンテキストを好むので、言うまでもなく

言葉で物語が紡がれている小説も同様に、定義づけや意味の付与が為されている作品、

それをうまくできる作者のものが好きです。

千早氏は、言葉や文章で絵を描いているかのような表現をしますが、これはこれで、

何となく自分の感受性に共鳴するものがある気がして、とても好きです。

言葉ってすごいな、と改めて思います。

言葉で表現できるものって、理念や概念だけではないんですね。

言葉で絵も描けるんだなあ、と本作を読んで感じました。

 

これと言って、それ以外に感激ポイントは個人的にはない作品だったのですが(笑)

この羽野という主人公、むかつくことにモテるんですよ。

スマートでミステリアスという印象も与えるのかもしれないが、私からしたら、

すぐに植物に逃避しようとするへたれで、好きになれない。

自分は逃避するし、そうできる場所を作っておいて、公然とした真理を、女性陣たちに

心なくつきつける場面がいくつかあります。

「ねえ、羽野さんって、ちょっと人を見下してない?」

とモデルのマリから言われ、

「見下す以前に、人は平等じゃないよ。そんなこと小学生でも知ってる」

と返し、喋りすぎたと自省する羽野。

基本的に築く人間関係において、「面倒だから」に基づく、守りと逃避の姿勢しか

ないんです。

守るのも逃げるのも、いけないことでは全くないですし、時に必要ですが、それしか

ない、それを最重要視するコミュニケーションスタイルは納得できない。

なぜならそれは、より誠実な人を傷つけます。

自分自身は、自分のコンフォートゾーンから絶対足を踏み出さないで静観していて、

普段は適当に笑って会話を流しているくせに、重要な局面で、その人が言われたくない

真実をずけずけと言ってのけるんです。

私もどちらかといえば、必ずしも人が欲しいと思っている言葉を与える人間では

ありません。

むしろ、褒め言葉の搾取は許さない、という確固たる意志があります。

私は、私の言葉で相手と対話したいから、そうやすやすと耳障りのいい言葉ばかり

与えることはありません。

私もそんな都合のいい言葉ばかりいらないし。

コミュニケーションを取る際、立場とか社会的地位とは別に、常に人として対等な状態

でないと、実のある対話はできませんし、私は常にそれを意識しながら話しています。

対等でない場合は、視線を合わせる、前提を合わせる作業が必要です。

それをしない、できない相手とは、私はコミュニケーションを取るつもりはない。

私が傷つきますから。

だけど、この羽野という主人公は、植物に囲まれた自分のお城から決して足を

踏み出さずして、達観したような視点でわかったようなことを言うんです。

挑戦もしないで最初から諦めて、ずるくて弱い人。

そこが作品趣旨でもあると思っているのですが。

 

数日前、早速また手術を終わらせてきました。

タイに入院手術をしにきたかのような、この1年の怒涛の病院通い、入院履歴と

なってしまっています。

それなりに仕事もしているつもりだし、元気な時は楽しんでもいますが。

タイの医療技術は観光医療実施国だけあって、やはり優れています。

今回お世話になった婦人科の先生も、今までかかったどの国の先生よりも良い先生に

当たったなあ、と思っています。

おかげさまで、本調子とは必ずしも言えないものの、ほぼ普通の生活を明日より再開。

何度も言うほど全く好きになれないタイですが、医療に関しては、心から感謝。