Kanae's Book Journal Occasionally with Movies

読書感想文とときどき映画。

<The 46th Book> 踊る彼女のシルエット

30代女性が必ず悩みもだえ、葛藤するであろう自分の生き方についての数々の議題を、

ぎゅっと凝縮して、女性の爽快な友情の物語にしてくれています。

 

「踊る彼女のシルエット双葉文庫

著:柚木 麻子

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honto.jp

 

またも柚木氏の作品。

「BUTTTER」「その手をにぎりたい」「ナイルパーチの女子会」に続く4作品目。

2021年4月が初版の最新作のようです。

つい手に取ってしまいました。

柚木氏の作品はとても好き。

 

現代を生きる女性の考えや感情を、ここまで豊かに言語化してくれているとは。

 

本作は、これまで読んできた作品に比べて、物語自体は単調に進みます。

とある商店街の義母が運営する喫茶店「ミツ」で、妊活をしながら働く35歳の佐知子。

学生来の佐知子の親友で、美貌の持ち主の実花は、かつて夢だったアイドルになる

ことはとうに諦め、「デートクレンジング」というアイドルグループのマネージャー

として、メンバーが小学生の頃から10年にわたり働いていましたが、グループ解散と

なったことをきっかけに、婚活に精を出し始めます。

「私には時間がない」と、近所の奈美枝さんの形見として寄贈された鳩時計に、

まるで追い立てられているかのように。

そこから少しずつ、ずれていく二人の友情の歯車。

切なく歯がゆい場面もありつつ、その登場人物各人の想いが身に染みます。

物語自体は、他の柚木氏の作品に比べて、アップダウン少なめで淡々と進むのに、

どうしてか涙ぐんでしまう局面がちらほら。

女性はどの世代でも、同世代であれば、男女問わず、共感しやすい作品かと。

 

 

佐知子の視点でストーリーは進むのですが、主役はむしろ実花じゃないかな。

私が実花に共感してしまいやすかっただけかしら。

 

 

私は考え方が非常に古いのか、

芸能人たるもの、人並外れた美貌もしくは曲芸なしに、人前に出て稼ぐな!

というような凝り固まった理想があります。

本作を読んで思ったのですが、これは私がオタクの対極にいるからなのかも。

ないんですよ、ハマれる物事も人も。

もう世が屈服するほどの造形美か力量で、圧倒するくらいでないと、私には良さを

見出せる人たちがいないんです。

もうネズミ算的にアイドルグループにしろ、タレントにしろ、俳優にしろ、

たくさん出てきますけど、その辺を歩いているような人、路上パフォーマンスと

(むしろ路上パフォーマンスのほうが感動したりするけど)大して変わらない人

とか、なんでメディアに出てきて騒がれるのか、全くわからないんです。

自然と、10代半ばから日本のメディアにはあまり触れなくなり、完全に

テレビ離れ化してしまいました。

これだけ「推し」が騒がれていて、もはや日本文化として当然のものとして浸透

しているのに、私には推しがない、いない。

映画俳優のDenzel Washingtonくらいかな、唯一推しといえそうなのは。笑

とはいえ、別に毎日、彼の映画に触れたい、その時間を作りたいとか全くない。

何にも詳しくないし、何事に対しても熱量がそこまでない。

それが最近の新たなコンプレックスとなっているわけですが。

かつて亜流だったオタクが主流になり、無趣味で非オタな私が亜流となってしまった。 

 

 

そしてそんな熱狂的なオタクに支えられているであろうアイドルたち。

本当に恋愛禁止であったりすることが多いそうで、人権無いなあ、とか思ったり

するわけですが。

本作に出てくる「デートクレンジング」というアイドルの解散のきっかけも

たまたま恋愛スキャンダルでした。

そもそも実花が造り出そうとしていたアイドル像は通例のものと異なり、

恋愛禁止でもなく媚びない疑似彼女的側面を持たないアイドルグループでした。

実花は、女性らしい女性が嫌いな父親の元で、男兄弟と父親が喜ぶような

言動をしながら育ちました。

女性らしい自分の母親に、素直になれない少女時代を過ごしてきています。

男らしく振舞うことが上位であると潜在的に認識しているからこその、

その振る舞いなのに、自分の担当するアイドルグループには女の味方であること、

男に媚びない、期待に応えなくてもいいと伝え続ける。

「日本ではどんなに演技が上手くて美しい女優でも、理想の恋人やお嫁さん像から外れたら、トップには立てない。わかるでしょ?」

親友でありながら、実花の一番のオタクである佐知子が、婚活に必死になる

実花を何とか彼女らしさを取り戻してほしいと、婚活会場まで駆けつけて、

話しに行った場面で、実花が佐知子に放った言葉の一部です。

(私、決してオタクになれないな、とも思った。笑)

恋愛スキャンダルで解散の運びとなったからには、結局、アイドルたるもの

疑似彼女的側面は持ち合わせるものなのだ、その風潮を変えることができず

無念で仕方がない実花は、失意のうちに、自分が男性の期待に応える婚活を

始めることになったわけです。

 

 

この矛盾、痛いほど、私は手に取るようにわかります。

ここ1年少しで、フェミニズムに関して読み漁るとまでは言いませんが、

何冊も目を通してきて、勉強してきたわけです。

ですが、学べば学ぶほど、どうしてもこの矛盾の板挟みになる感覚があります。

以前も書きましたが、私は人気だとかモテだとかに異様なコンプレックスが

あります。

そして、それをうまく得られない反発心もあります。

その二つが未だに拮抗している。

自分らしさの中に、女性らしさ(媚びられる、愛嬌がある)があまりないって、

それだけでとても欠陥があるように思えました。

”女性らしさ”が少ないからと言って、ゼロではありません。

人より(他の女性より)少しだけ”男性らしさ”が多かったのかもしれない。

別に、だからといって、強いわけでも、可愛いものよりかっこいいものが

好きなわけでもないのに。

それでも、女性らしさが少ないから、男性的な言動に寄せていって、そちらに

取り入ろうとする自分がいたことに、本作を読んで気付きました。

男性優位社会なのだから、男性側に自分を寄せていって、女性を見下す、

そんなミソジニー的思考が、私の中にまだ強く根付いてしまっています。

そこまでしても、どうしても、得られたことが未だかつてない、所属感

というものを得たかった。

だけど結局、何が本当の自分らしさなのかも見失う羽目になってしまいました。

その自分らしさを救うために、私はここまでフェミニズムに傾倒していた、

ということを気付かせてくれた本作でした。

 

 

あと、女性の友情も、アップデートしていけるという希望もこめられた一作。

男性は、結婚しようが子供ができようが、社会生活が変わらないけれど、

今の日本社会では、女性はどうしてもそうはいきません。

結婚したり、子どものいる女友達とは、私もどうしても疎遠になってしまった。

自然な流れだと思い込んでいるし、そんなもんだ、と言われればそれまで

だけれど、どうしてもそれをそうだと言いたくない。

佐知子の妊娠が発覚した時、佐知子の夫が、「見えない差別」と解釈して

説明していた言葉です。

(ああ、なんてデキた夫だろう。私も仮に結婚するならこんな人がいい。)

先日、ご飯屋さんでで、私のかつての親友とのエピソードを話した時に、

(詳しくはこちら。笑)

kanaebookjournal.hatenablog.com

「切ないね。だけど大人になっていく、友達ってそんなもんだよ。」

というような感想と助言をもらったのですが、

そうなんだけど、そうじゃないんだよう!!!

って私が思っていたことも、この本がうまく言葉にしてくれた気がします。

 

 

こんなにも多岐にわたるトピックが、可愛くもあり、リアルでもあり、

爽やかでもあり、示唆に富んでいる、素敵な物語でした。