Kanae's Book Journal Occasionally with Movies

読書感想文とときどき映画。

<The 54th Book> 選んだ孤独はよい孤独

あー、いるよね、そういう男。

っていう感じの男性たちがメインの短編集。

女性の視点で読むと、「うわ、いるいる、こういうクズ男」ってなるけど、

ニュートラルに読むと、もし自分が男だったら、って読むと

結構しんどい。。。

 

「選んだ孤独はよい孤独」(河出文庫

著:山内 マリコ

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www.kawade.co.jp


地元(の仲間)から抜けられない、冴えない無職アラサー男。

ボールが怖い男子。

彼女から性行為を強要され、尊厳を失いかける男子。

自分で自分の面倒を見ることもできず、4年経って、ようやく

付き合っていた彼女に捨てられたと悟る男。

一見仕事がデキそうに見えて、実はデキないことを見透かされている男。

三菱商事社員でなければ結婚してもらえない男。

無難な人間を自称(自虐?)する男に、救われた男。

知らない間に父親になって、知らぬ間に祖父になる男。

死に魅了される男。

女性が語る男もあれば、男性が語る男も、

詩のような作品もあれば、小説風のものもあり、あっという間に読了。

 

山内マリコ氏の作品は、「あのこは貴族」「メガネと放蕩娘」に続き、

本ブログで紹介するのは3作目でしょうか。

女性同士の話が多い印象の山内氏でしたが、今回は、男ストーリーの寄せ集め。笑

冒頭でも少し書きましたが、「うっわ、男ってマジでクズ...」って思うような

男性も結構描かれているんですよ。

何もしていないのに、子どものこともわからないまま祖父になっていた、とか。

指示待ちでしか家事ができないのに、自分をいい彼氏だと思い込んでるとか。

金さえ稼げばいいだろ、的な態度とか。

金稼いで、指示次第では育児家事して、それで「俺っていいやつ」って

思えるとかどれだけ男ってお気楽なんだよ、本当意味わかんないよ、とか

作品の中に描かれていないストーリーも、色んな”あるある”から引っ張って、

ひとりで怒りそうになっていたんです。笑

だって、女は金も稼いで(出世したいならミスは男以上に許されないし)、

出産家事育児して、ようやく一人前なのに、男は会社でそれっぽく働けば

終わりじゃんかよ、「女はいいよな、最悪結婚すれば逃げられるんだから」って

ちげーよ、「男はいいよな、とりあえず会社行ってればいいんだから」だよ!

とか、もうひとりでイライラむかむかしたりしていたんですけど。笑

(まあ私も「とりあえず会社行ってる女」だから何も言えない。笑)

 

 

話は少しそれますが、私、新入社員の時に、

「ああ、私、甘やかされた死刑囚になってしまった...」

って思ったんですよ。

新入社員は大体、業務(現場)から、なんて会社は多い気がするけど、

私の入社した会社も例にもれずでした。

従って、若手社員が多くて。

そりゃあ最初は多少勉強したり、覚えることもあったけれど、

雰囲気自体が、なんとなく学校の延長みたいな部分もありました。

仕事や業務自体は興味を持てなかったけれど(ていうか、この10年弱、

働いてきて興味も熱意も全く持てたことないわw 仕事ってだけでだめだわw)、

なんか、みんないい人で、本当に当時は楽しかったんですよね。

たまに失敗したり、嫌な案件があったりすると、憂鬱になることも時にあれど、

最初の5-6年くらいは、朝起きて、「今日は誰と何のランチ食べようかな!」

くらいの気持ちで行っていた気がするんですよ。

思い出だから、美化されているだけかもしれないけれど。笑

大企業だから、自分から一生懸命働きかけなくても、仕事は振ってくる。

仕事のできが良かろうと悪かろうと、クビにはならない。

一生懸命働かなくても、生きる分のお金はもらえる、

いぇーーーい、サラリーマンの醍醐味だぜ!みたいなね。

(やりたいこととやる気があれば、さっさと起業しているよ。笑)

とはいえ、ずっと同じ部署で同じ仕事をするなんてことはなくて、

私なんかは異動が人より結構多いから(こんなマインドだから厄介払いかもね)、

全然何も身につかなくて、やりたいことも糞も見つからねぇよ、みたいな

キャリアを積んできて、「飼い殺されているなぁ」って最近思うのだけれど。

最初は甘やかされて、あちこち行かされて、この会社でしか生きていけない

キャリアになってしまった...遠い目、、、みたいな。笑

(たぶん必ずしも、そんなことないんだろうけれど。)

でもね、生活があるから、もう逃げられないのです。

今の仕事、正直しんどい。

興味は前の業務以上にないし、適性も皆無だし、何より感情的に嫌い。

でも、今ある生活より、下のランクの生活も、望んでいないのです。

だから、しがみついていかないといけない。

これ以上落ちないように、あわよくば、今より少し上に上がれるように、

喰らいついていかないといけない。

さあ、これぞ甘やかされた死刑囚の死闘です。

 

 

私は女性だから、わからないけれど、ひょっとしたら男性の人生って、

そんな感じなのかな、って思ったりします。

社会って、男性を優遇するでしょう。

(しない、とは言わせません。男女差別の存在は否定できないのだから。)

男性は、生まれたときから優遇された男の社会しか知らずに生きているんです。

そして、その優遇された男の社会というものは、歴史と伝統によって数千年にも

わたって紡がれているから、大企業を辞めることなんかよりもずっと、

その社会から下りることははるかに難しいんです。

自らその社会から外れることって、もはや死なのではないだろうか、

男性のほうが明らかに自殺率が多い統計があるのはそういうことだろう。

生まれたときに乗らされたレールに、しがみついて、振り落とされないように必死。

家事しなくていいよ。育児もしなくていい。自分の面倒も自分で見られなくてOK。

でも弱弱しいのはダメ。女におごらないとダメ。そのために出世しないとダメ。

男は金と権力を求めて生きろ!!

そんな訳の分からない、不要なルールにがんじがらめにされているのでしょう。

自分が求めるべきものまで、社会から押し付けられて。

女の私には想像つかないけれど、想像しようとしても、

私のサラリーマン人生と似てるのかなぁ?どうかなぁ?くらいだけれど、

絶対、相当しんどいはずなんですよ。

特に、仕事も家事も育児も完璧なスーパーウーマン的女性が出てくれば

(そんな女性の測り知れない努力と労力には申し訳ないけれど)、

もう男性も女性も、息継ぎもできぬほど、あっぷあっぷですね。

マジでこの男性優位社会、誰得????

 

 

ということを、代弁してくれたのが本作です。

本ブログで紹介した、「さよなら、男社会」や「男らしさの終焉」も

ぜひ読んでいただきたいですが、山内氏のキレッキレながら、時に軽妙、

時に美しく描かれている物語で、フィクションならではの重くなりすぎない

気持ちで読める本作、おすすめです。

これフィクションですよね?と、あるある男子、あるある会話が多すぎて、

思わず疑いたくなるくらい、物によってはコラムやエッセイを読んでいる

ような気分で読めるのに、男性優位社会へメスを入れてくれている本作、

秀逸です。